670: 2014/09/19(金) 01:33:12.32 ID:cmSkJ5CM0
DVD四巻の八話オーコメ(諏訪さん、浅倉さん、安済さん)の伊介様話により浮かんだ春伊
二人は付き合ってます

伊介「~♪ どうってことないsympathy~♪」

今日は待ちに待った春紀とのデート当日。
楽しみ過ぎて、今ならあのポンコツ処Oに「おまえ、臭いな」って言われてもおでこをツンとつついて「アハ♪ もう東さんたらぁ♪」って赦せちゃうでしょうね。

春紀は暗殺から足を洗って、今はいわゆるガテン系の仕事で毎日頑張っている。
黒組にいる頃に趣味がDIYって聞いた時は、何となくこういう道の方が春紀には似合うって思ってたけど、やっぱり今の春紀は前よりも輝いて見えるわね。
……頃しに対する良心の呵責とか倫理観? 同情? っていうのかしらね。とにかく、「そういうこと」について言及するつもりはない。
でもね、伊介だって……本気で好きになった相手に気を遣うくらいの真心は持ち合わせているのよ。
何が言いたいかって、要するに春紀にデート行こうって誘われた時、「ほとんど休みなく働く春紀の休日を伊介で埋めちゃっていいの?」って柄にもなくちょっと悩んじゃったの。
だって、春紀にも帰りを待ってる家族がいる訳でしょ。……何よ、春紀が退学する前に「邪魔なものは片付けちゃいなさい」みたいに言ったことはこれでも反省してるわよ。
だからってモヤモヤしたままじゃイヤだし、伊介はソッコーがモットーだからって自分に言い聞かせて、本人に直接聞いたわ。そうしたらアイツ、

「昼間は二人で出かけて、夕方になったらあたしの家で一緒にご飯作って皆で食べよう。冬香達にはあたしから話しておくから。それなら心配いらないだろ?」

あんまりサラッと言うもんだから一瞬反応出来なかったわよ。
だってそれって何だか……ううん、考えちゃダメよ伊介、こういうのはぶっつけ本番くらいが案外とイケるものよ。

707: 2014/10/23(木) 01:48:52.46 ID:c0KOY7/HO
春紀と伊介様の立場が逆だったらというif

あたしの名前は犬飼春紀。

ミョウジョウ学園10年黒組――ターゲットを一番早くこの世界から「解放」した者に何でもひとつ報酬が与えられるデスゲーム――に参加することになっている、暗殺者の一人だ。

正直こういうのは性に合わないし気乗りしないんだけど、"母ちゃん"からの勧めだったしまぁやってみるかと引き受けることにした。望む報酬は「両親が老後生きていくのに困らないだけの金」。

母ちゃんは、困窮と過労で気付いたら息をしなくなっていた"母さん"の傍らで氏にかけていたあたしを拾って"娘"として育ててくれた、かけがえのない大切な人だ。その母ちゃんの大切な人であるあたしの父ちゃんも当然、大切な人。

そう、絶対に、意地でも守りたい家族なんだ。
だからあたしは人を[ピーーー]。
母ちゃんから教わった暗殺の技術を継ぐために、父ちゃんの与えてくれた優しさを想いながら、あたしはこれからも罪を背負い続ける。

671: 2014/09/19(金) 02:09:03.23 ID:cmSkJ5CM0
まァ、結局は春紀とのデートを楽しむ以外に選択肢はないって気付いたから、今こうして待ち合わせ三時間前に待ち合わせ場所に立ってるワケ。
……我ながら早すぎたわ。思春期の中高生かっての。あ、でもちょっと前まで一応高校一年生やってたから別におかしくはないわね。

……。
あーあ、伊介、何やってんのかしら。黒組にきて春紀と出会う前は、むしろ相手を待たせる方だったのに……。

……春紀、早く来なさいよ。
周囲から、特に男から変な目で見られてることに気付いてるけど、アンタに見てもらわないと意味ないっての。
アンタの為に、アンタに可愛いって言ってもらう為に、普段以上にお洒落したんだから。
アンタが嫌がるだろうからって胸元の露出は抑えてるけど、アンタの喜んでくれそうな服をママに苦笑いされるくらい何時間もかけて選んだんだから。

あ、どうしよう。
ヤバい、さっきから春紀の笑顔しか浮かばない。あと三時間で会えるのに、それが途方もなく長い時間に感じる。
何だっけ、こういうのって特殊相対性理論? っていうのかしら。
一緒にいたい相手を待ってる時は時間の流れをバカみたいに遅く感じて、長く側にいたい時ほどあっという間に感じるってやつ。あんまり覚えてないけど。

……ホント、早く来なさいよ、春紀。
早く、伊介に……天使みたいな笑顔を見せてね。
そうしたら、今度は伊介が天使のスマイルをあげるから。

672: 2014/09/19(金) 02:43:28.63 ID:cmSkJ5CM0
――しばらくの間、どうにかして時間を潰そうと春紀のことを考えて過ごしてたけど……流石にトイレに行きたくなってきたから、待ち合わせ場所を離れて近くのコンビニに入った。

用を済ました後、コンビニで焼肉弁当があるのを見かけて春紀が焼肉好きだったことを思い出し、今度家族みんなでバーベキューにでも行こうかしら、春紀はたくさん食べそうだから肉を多めに――と思案して我に返った。
無意識の内に、家族の中に「寒河江春紀」が浮かんでいて……あぁもう勘弁してよ。ここが暗殺決行現場だったら伊介今頃ターゲットに気付かれるどころかボディーガードに勘づかれて人生から退学よ。

自分の中で春紀の存在がとんでもなく大きくなっていることに気付く度に、胸の中がキュゥッと締め付けられる様な感覚に陥り、それを息苦しく感じるどころか……身体の中から飛び出るんじゃないかってくらい温かいもので満たされる。

……うわ、伊介、ホントにヤバいかも。

春紀のことが身体に染み込みすぎて、もう春紀抜きの人生とかありえない。春紀に拒絶されたらどうなるか分からない。下手したら、泣き喚いて、すがり付くかも。
……伊介って、こんなに重い女だった?
そんなことを考えていたら、雑誌コーナーにある女性向け雑誌の特集に「アナタも要注意! 重い女から卒業しよう」というのがあるのが目に入ってきて、思わず手に取って読み始めてしまった。

673: 2014/09/19(金) 02:56:14.62 ID:cmSkJ5CM0
ハッとして顔を上げ、コンビニの時計を確認するともう待ち合わせの約一時間前。
読み始めてから三十分以上も経ってるとかどんだけ読み込んでんのよ、と自分に呆れつつコンビニを後にした。

でも、春紀なら一時間前でも来ているかもしれないわね。アイツガサツな癖にマメだし。……そうよ、そういうトコも気に入ってるわよ、何か文句あるの?

待ち合わせ場所まで目測で100メートル近く。

……やっぱり、いた。
いつもの様に赤い癖っ毛をポニーテールにして、待ち合わせ場所に立ってるのが見える。

そうね、会いたい会いたいってずっと春紀のことを考えて待ってたんだもの、自分のキャラじゃないって思っても嬉しくて駆け出したいに決まってるわ。

春紀の隣に、伊介の知らない女が立ってなければね。

674: 2014/09/19(金) 03:03:45.87 ID:cmSkJ5CM0
なんていうか――率直に言うけど。

[頃す]。

誰をって、そんなことは置いといてね。

とりあえず、[頃す]。

今自分がどんな顔をしているか、びっくりするぐらいよく分かるわ。
暗殺者としてじゃなく、一人の女として。

ぶち[頃す]。

676: 2014/09/19(金) 03:48:28.05 ID:cmSkJ5CM0
春紀「ヘェー、いいね、それじゃあ今度あたしからも何かお礼しないとな」

女「お礼なんて……そんなに気を遣わなくていいよ、春紀。私達の仲なんだし」

春紀「いや、そういう訳にもブッ!?」

女「!?」

”彼女”と普通に話していたら、突然後頭部に硬いものがぶつかってきた。
誰かに何か投げつけられた!? と痛む頭を動かして周囲を見渡したら、犯人が誰か、何故後頭部に衝撃がきたのかすぐに分かった。

片っぽだけハイヒールを履いたアンバランスな状態で、実にいい笑顔を受かべている般若様――もとい、伊介様が、あたしの後ろから10メートル程先で腕を組んで此方を見ていたからだ。

あ、何か今日の伊介様いつも以上に可愛い。服も靴も凄い似合ってるなぁ。……なんて思ってる場合じゃないな。”彼女”も戸惑ってるし。
あたしは”彼女”に被害が及ばない様にちょっと待っててと声をかけ、地面に落ちていたハイヒールの片っぽを拾い上げ伊介様に近付く。
あぁ、近くで見るともっとヤバい。同じ女なのにあたしと違って可愛すぎるよ伊介、なんて内心では思いつつ、全く笑っていない目を見つめて切り出した。

春紀「伊介様」

伊介「なぁに春紀♪ 氏ね♪」

春紀「聞いてくれ。伊介様の考えてることは誤解だよ」

伊介「誤爆はポンコツ委員長の特権でしょ♪ 氏ね♪」

春紀「とりあえず神長なんかすまん。それより、誤解なんだ、誤解。”彼女”とはさっきあたしが待ち合わせ場所着いた時に偶然会ってさ。久しぶりだったからちょっと話してたんだよ」

伊介「ヘェー、随分と仲のいい”彼女”なのね♪ 氏ね♪」

春紀「あー、”あの子”。あの子な。あの子は小さい頃にうちの近所にいた子でさ。引っ越してからは音沙汰なくて、本当に久しぶりだったんだよ。だからあの子とあたしは幼なじみとも呼べないし友達ってほど仲がいい訳でもない間柄」

682: 2014/09/21(日) 13:28:10.87 ID:T5Sffr3X0


伊介「フーン、つまり春紀にとっては人生に全く影響を与えないどうでもいい奴ってことね?」

春紀「言い方に毒がありすぎだけど間違ってはいないな」

女(凄い、よくわかんないけど私めっちゃdisられてる。ちょっと距離あるのに聞こえてるよ)

伊介「……なら、さっきのアレは何よ」

春紀「アレ?」

伊介「『あたしからも何かお礼しなきゃ』『私達の仲なんだし』……何の話をしてたのか、0から100まで教えろ♪」

春紀「え……うーん、まァいいか。別に隠す様なことでもないし。この間、あの子とあの子の弟とあたしん家の弟達が公園で仲良くなったらしくて、今もたまに遊んでくれてるそうなんだ。あたし、最近は仕事から帰ってくるの遅かったら、そんな風になってたなんて知らなかったんだよね」

683: 2014/09/21(日) 13:43:30.57 ID:T5Sffr3X0
伊介「……」

春紀「私達の仲云々は……言葉の文じゃないかな? さっきも言ったけど、実際あたしとあの子って友達でも幼なじみでも何でもないし。社交辞令的な」

女(ハッキリ言い過ぎだろ)

春紀「ね、ただそれだからさ伊介様。機嫌直してくれるかい?」

伊介「……あのさぁ」

春紀「ん?」

伊介「何で伊介がムカついたのか、アンタホントに分かってる?」

春紀「……あたしが伊介様とのデート当日によりにもよって待ち合わせ場所で浮気してると思ったから?」

伊介「は?? そうなの? あ、そうなんだ。ハイりょーかいぶち頃す♪」

春紀「違うからね!?」

684: 2014/09/21(日) 14:03:38.66 ID:T5Sffr3X0
春紀「っていうか、違ったのか。あたしはてっきり」

伊介「アンタが我慢は得意だけど浮気は苦手なことぐらい分かってるっての。まァもしされても頃すだけだしかーんたん♪」

女(ねぇこの人怖いんだけどマジで、てか春紀この人と付き合ってんの……?)

春紀「じゃあ、何で……」

伊介「……自分で考えろ♪」ビキビキ

春紀「……………………」

春紀「………………」

春紀「…………」

春紀「……」ハッ

春紀「え、伊介様って結構嫉妬深いの?」

伊介「」

685: 2014/09/21(日) 14:15:46.24 ID:T5Sffr3X0
春紀「えっと……待ち合わせ場所に来てみたらあたしが知らない女と話しててヤキモチ妬いたってことだよな?」

伊介「……普通、ていうか逆の立場だったらアンタだって妬くでしょうが」

春紀「うーん、あたしは別に……『お、知り合いかな』くらいで済ませる、かな」

伊介「……」

春紀「そんで、伊介様に伊介の彼女よって紹介してもらうな」

伊介「……」

春紀「それとも、こういう場合って妬くのが普通なのかn
伊介「バーーーーーーカ!!!!」

春紀「!?」

686: 2014/09/21(日) 14:48:02.07 ID:T5Sffr3X0
伊介「バーーカッ!! 鈍感難聴ラノベ主人公!! クソバカ!! 氏ね!! いっぺん氏ね!! 二回氏ね!! ていうか頃すマジそげぶ!! ニンニク!! トッポギ!! キムチ!! コチュジャン!! サンチュ!! ビビンバ!! ホルモン!! カルビ!! 牛タン!! ロース!! 豚トロ!!」

春紀「あたしの悪口言いたいのは分かったけどだいぶ意味わかんねぇから伊介様落ち着いて!?」

伊介「アンタホントに何なのよ!? 前提からしておかしいってのよ、伊介は待ち合わせ三時間前には来てたのよ!! どんだけ楽しみにしてたと思ってんのよ、
どんだけ会いたかったと思ってんのよ、どんだけショックだったと思ってんのよ!? 」

伊介「自分が重い女だってことぐらい分かってるわよ、それでも伊介は嫌なの、アンタが他の女に笑顔を向けてるのがムカつくのよ!! よりにもよってデートの直前にそんなの見せられてみなさいよ、妬くに決まってんでしょうが!!」

伊介「何でアンタは誰にでもそうなの、笑顔とか優しさが無意識の内に誰かを惚れさせてるかもって考えないの、自分の可愛さとかかっこよさを自覚しないの」

伊介「何でこんなに――どうしようもなく」

伊介「アンタを好きになっちゃったの」

687: 2014/09/21(日) 14:58:40.56 ID:T5Sffr3X0
春紀「……」

伊介「……」グスッ

春紀「……伊介様」ギュッ

伊介「……はるきぃ……ごめんね……重いって、ホントに分かってるの……でも……」

春紀「うん」

伊介「大好きなの……春紀とずっと一緒にいたいの……だから」

春紀「……うん」

伊介「きらいにならないで……伊介を放っていかないで……」ギュッ

688: 2014/09/21(日) 15:19:16.58 ID:T5Sffr3X0
春紀「……伊介様はバカだなぁ」

伊介「……バカ、じゃないわよ、賢いわよ……」

春紀「はは、黒組のテスト白紙で出した人がよく言うよ。というか、そうじゃなくてさ」

春紀「確かに、伊介様はちょっと重いタイプの女かもしれない。伊介様の言い分を聞くと、つまりは誰とも喋るな笑いかけるなって言われてる様なモンだからな。そりゃちょっと無理な話だ。まァ、デート前に待ち合わせ場所で他の子と話してたのは少し反省するけど」

伊介「……」

春紀「でも、そういう部分も含めて”伊介様”だろ? あたしは伊介様のことが大好きだよ。出来ることなら、ずっと一緒にいたい――むしろこの人以外考えられないってぐらいにはね」

伊介「……春紀……」

春紀「これから先、何度もヤキモチ妬かせちゃうかもしれないけどさ。それも”あたし”ってことで、お互い受け入れて生きていこう。だから、ここは一つ……赦してくれないか?」

伊介「……」

689: 2014/09/21(日) 15:37:25.87 ID:T5Sffr3X0
伊介「……しょうがないわね。伊介、年上だし赦してあげる♪」

春紀「はは、そりゃよかった。ああそれと、言いそびれてたんだけど」

伊介「?」

春紀「今日の伊介、いつも以上にとんでもなく可愛いよ。いつもよりオシャレしてくれたんだな」

伊介「……っ」

春紀「それに、三時間前には来てたって……ホント、伊介可愛すぎ」

伊介「~~~~っ!! バッッカじゃないの!? アンタに可愛いって言ってもらう為に準備したとかそんな訳ないでしょ!? 調子に乗んな!!」

春紀(ねえこの人マジで可愛すぎるんだけどホントどうしたらいいの?)

伊介「……それより、早くしなさいよ」

春紀「ん? 何を?」

伊介「あの子に、あたしの紹介。するんでしょ」

春紀「……忘れてた」

女「おいコラ」

女(ギャル同士の百合……姉御気さくおおらか系×ワガママで嫉妬深いけど一途系……これはいつか何かの作品に入れよう)

後の悪魔のリドルである

690: 2014/09/21(日) 15:42:10.32 ID:T5Sffr3X0
以上です。もっと短くするつもりが結構長くなってしまった……これが春伊の力……?行き当たりばったりで途中からグダグダになりすみませんッしたァ!

708: 2014/10/23(木) 02:29:10.99 ID:SqzJIO+IO
「それじゃ、伊介が留守の間、頼むわね冬香♪」

笑顔でそう言って、妹の冬香の頭を優しく撫でる。
冬香は寂しそうな表情で、でも小さく微笑みながら「うん。行ってらっしゃい、いーちゃん」と頷いた。……ごめんね、冬香。

伊介「ソッコーで終わらせてくるから」

寒河江伊介、それがあたしの名前。
女なのに伊介って変ってよく言われてイラッとするけど、あたしはカッコイイと思って気に入っている。だから、自分のことを呼ぶ時は今は「伊介」って言ってるわ。

下には九人の妹弟がいて、パパは中学の時に天国に逝ったから親はママ一人。そのママもパパがいなくなったことで一所懸命働き過ぎて今は病弱。

要するに、今とぉっても貧乏で……貧乏すぎてヤバイのよねぇ。
働きに出れるのはママを除けばあたしと冬香しかいなくて、その冬香には家のことを任せている。
病弱なママにまた働きに出てもらおうなんて冗談じゃないから、稼げるのはあたし、伊介だけ。

とは言っても、まだ十代半ばで中卒になったあたしがやれることなんてハッキリ言ってゼロ。

それでも何でもやってやるって思って風俗なんかも考え始めた時に、ゼロを百に変えられる仕事を知った。

そこから、暗殺者としての「伊介」が始まったワケ。

伊介「ミョウジョウ学園……ね。金持ちばっかでうっざ」

まっ、報酬として決めてある「家族が一生生きるのに必要な資金援助」はこの立地を見るだけでもちゃんと払われることが保証されてるかしらね。

709: 2014/10/23(木) 03:07:43.72 ID:SqzJIO+IO
黒組に参加する生徒は二人一組で寮生活させられるらしく、割り振りのプリントには二号室が宛がわれていた。

伊介「フーン、同室相手は犬飼春紀、ね♪」

そう呟き、あたしはプリントをビリビリに破いて部屋にあったゴミ箱に放り投げた。

なんつーか。
メンドくさい。

これでも大家族の長女だから、多人数で狭い場所で暮らすのは平気。
でもそれが、全くの見知らぬ人間と――それも暗殺者と二人で過ごさなきゃならないってなると話は別なのよねえぇ。

部屋自体はテレビドラマで出てくるホテルの様な造りで、綺麗だしベッドも二人一緒に寝てもお釣りがくる様な大きさで、金持ちの学園って感じがビンビンくるけど……。

伊介「……いくらこういう暮らしに憧れててもねぇ……」

なんだか落ち着かないので、あたしはボロいキャリーケースを開けて整理することにした。

着替え、日用品、化粧品……「え?」

確認の作業中、いつも愛用しているハンドクリームがないことに気が付いた。

伊介「……うっわ最悪……マジで……ありえないんですけど……」

あたしは貧乏だろうが美容に関しては――お金のやりくりが出来る範囲でだけれど――手を抜かない様に心がけている。髪の一部を巻いたり、爪の手入れをしたり、そうするだけで楽しい気持ちになるし、家族も「綺麗だね」と誉めてくれる。
ハンドクリームもそのひとつで、家族があたしの誕生日にくれた大切なものだ。
それを忘れてきたなんて、なにしてんのよ。
あぁイラッとする。ホントに最悪の気分だわ。

710: 2014/10/23(木) 03:24:47.89 ID:SqzJIO+IO
黒組のオリエンテーションで晴ちゃんと兎角サン、鳰サンと真昼サンという個性的なメンバーとの顔合わせが終わり、寮へと続く道を歩く。

にしても、あんな感じのが他にも来るワケだよな。ハハッ、そういう意味では飽きそうにないか。
そういや、晴ちゃんのストラップのことで兎角サンが反応してたのはもしかして面白い収穫かもしれないな。ただの勘、だけどさ。

アイツ、確か晴ちゃんと同室だし。
……厄介なことにならなきゃいいけど。

ロッキーをかじりながらそんなことをつらつらと考えている内に、豪勢な廊下を抜けた先――二号室を発見。

……そういや、同室誰だっけ? 変わった名前だった気がするけど……プリントなくしちまったしなァ。

まァいいや、とあたしは鍵をガチャリと外し、勢いよく(あたし的にはいつも通り)扉を開けた。

そこには明らかに不機嫌……いや落ち込みオーラか? を発揮し四つん這いになっている長い髪の女がいた。

713: 2014/10/30(木) 22:46:06.23 ID:fWJtBEZCO
その女は、しま○らとかで売ってそうな安物の服ーーというか緑色のパーカー ホットパンツ ブーツってどこかで見たことある格好である気がするーーを身に纏っていてどことなく貧乏な感じがするものの……後ろ姿だけでも「美人」である様な気がした。

何というか、髪をポニーテールにしているので白いうなじが凄くキレイでーーって何を見とれてるんだよあたしは。

ハッと我に返り、先ほどから反応のない女にどうしたもんかと頭をポリポリ掻いて少し悩む。

……まっ、そんなの数秒で終わったけどな。
こういうことで悩むのはあたしの柄じゃない。

714: 2014/10/30(木) 22:58:12.03 ID:fWJtBEZCO
春紀「なぁおまえ。何か困り事でもあったんかい?」

初対面なんて気にせず声を掛けた。

すると、女はピクリと反応を示し、ユラリと顔を動かしてあたしの方へと振り向いた。

……うわぁ、やっぱし美人だったか。しかもどえらい美人。今めちゃめちゃ睨まれてるから目付きがひどいことになってるけど、それすら様になっているほど別嬪さん。……こんな人本当に存在するんだな。
つーか、何でそんな機嫌悪いんだ? あたし何かしたか? この部屋入ってまだ一分も経ってないんだけど。

あたしは女から感じる謎の殺気に無意識の内に身構えながらも、女からの反応を待った。

女の桃色の唇が開かれた一瞬をスローモーションの様に感じたのは何でだったのだろう。

715: 2014/10/30(木) 23:09:11.89 ID:fWJtBEZCO
伊介「あのさぁ」

春紀「ん?」

女の声はどこか甘ったるく、扇情的とでもいうのかねーーとにかくそういう、何か吸い取られそうな可愛い声質であるみたいだ。今はドスが効いてて、大の男でもチビりそうな殺気を孕んでいるが。

あたしの気の抜けた応答をどう思ったのか、女はすっくと立ち上がって片手を腰に添え、真っ正面からあたしを見た。
……胸でっかいな。スタイルもメリハリがあってメチャクチャいい。でもそれだけじゃなく、鍛えられた体躯が内に隠されている様にあたしは感じた。

つまりは、こいつはあたしと「同じ」だと本能的に感じた。

そんなあたしの思考をぶったぎるかの様に、女の低い声が響く。

716: 2014/10/30(木) 23:34:28.94 ID:fWJtBEZCO
伊介「初対面の人間に向かって『おまえ』って呼ぶとその人をイラつかせちゃうって学校で習わなかった?」

一瞬何を言ってるのか分からず反応が遅れる。

春紀「……あー」

なるほど、コイツはそういう所が気になるタイプだと。あたしは女の言いたいことをひとまず理解し、こう答えた。

春紀「や、ごめんごめん。もう知ってるかもしれないけど、あたしは犬飼春紀。アンタと同じ二号室だよ。よろしくな」

気さくな対応。黒組というデスゲームの"ライバル"であることは分かっていたけど、こちらは同室相手に敵意
はないことを理解してもらうには有効だ。

と、思ったんだけど。

伊介「不合格」

春紀「へ?」

伊介「『アンタ』も却下。伊介のことは『伊介様』って呼んでよ」

……。

あぁ思い出した。寒河江伊介だ。
変な名前だと、思ったんだった。
名前の通りというか、ヘンな奴。

春紀「……まァ構わないけど、何でまた『様』付け? 伊介って名前自体ヘンな気はするけど」

伊介「ヘンじゃないわよ、カッコイイわよ」

春紀「そーかなぁ」

伊介「アンタのそういうところにイラッとしたからよ。つーか春紀とかいう名前の方がよっぽどヘンだろ」

春紀「あたしを『アンタ』って呼ぶのはアリなの?」

伊介「当たり前のことを聞かないでくれる? うわ、どうしよう……アンタマジでムカつく♪」

何つーか、めちゃめちゃ理不尽な気がするんだけど。

717: 2014/10/30(木) 23:57:16.60 ID:fWJtBEZCO
兎角サンとか他のクラスメートも癖が強いとは思ったけど、コイツは一際である気がする。

……けど、なんだろ。
別にイヤじゃない。
むしろ、付き合いやすそうな、好きなタイプかもしれない。

春紀「なぁ伊介様、苗字はなんての?」

伊介「聞くのおせぇよ♪ 寒河江伊介。よく覚えときなさいよ。間違えたら頃すから♪」

春紀「……寒河江伊介、サガエイスケ、かぁ」

伊介「なに? まさかアンタ、苗字にまでケチつけんのかしら? アハ、頃しちゃおうかな?」

あたしは苦笑してコイツの前を通り過ぎ、手に持っていた荷物をよっこらしょと置いて何気なくこう言った。

春紀「変わった名前だと思うけど、寒河江伊介っていう響きが凄くいいなと思っただけだよ」

さっきコイツの名前を思い出した時からそう感じていたが、本人の口から聞いて改めてそう思った。
寒河江伊介。
ヘンだけど、いい名前じゃん。
……あたしの"母ちゃん"と、似た名前だし。

そう思って、ふとコイツの方へと振り向区と。

718: 2014/10/31(金) 00:14:53.91 ID:gED+iRefO
振り向区と・振り向くと ッス

春紀「……? 伊介様?」

さっきまでの殺気はどこへやら、目を見開いて呆然とあたしを見ているコイツの姿。
え、なに。急にどうしたの。

すると、あたしの視線に気付いたらしく、コイツは急にあたふたとし始めて、

伊介「ーーっ、バッカじゃないの!? ホントムカつくイラッとする!!」

何故か罵倒されても、あたしには何がなんだかさっぱり分からない。
そうこうしている間にも、コイツはポニーテールをほどきパーカーを脱ぎ捨て、バタバタと浴室まで早足で向かう。
浴室に入る寸前、何故か顔を赤くしたコイツは、捨て台詞にこう残した。

伊介「覗いたらマジでぶち[ピーーー]から!!」

バッターンっ、という効果音と共に浴室の扉が閉まる。
シャワーでも浴びるのだろうか。

……いや、つーかあたし女だしそういう趣味ないし。
一体急にどうしたんだろうな。

あたしは苦笑しつつ、床に落とされたパーカーをしゃがんで手に取る。まだ体温が残ってるな。男ならこういう時、「ヘンタイ」なことをするんだろうか、とくだらないことを考え、あたしはパーカーを畳んで伊介様のキャリーケースの側に置いた。

……ふと、キャリーケースの中身を見る。

719: 2014/10/31(金) 00:33:48.46 ID:gED+iRefO
着替え、日用品、化粧品……
美人な見た目に反して、持ってるものは何というか……意外と質素なんだな。基本的なものとか最低限の道具を一通り揃えている感じだ。

その中で感じた違和感。

……オシャレに気を遣ってそうな割に、ハンドクリームが見当たらない。

ケースの中の何処かにしまってあるのかもしれないし、浴室とかベッドにもう置いてあるのかも知れないけど、もしかして忘れてきたのか? それでさっき四つん這いになって不機嫌オーラを出してーー
……って、いくらなんでも考えすぎ、か。
今日会ったばかりの女の所持品について考えを巡らせるだけならまだしも、勝手に想像した挙げ句勝手に相手の状態を探って……あまつさえ「手助けしよう」と思うなんてどうかしてる。

まァ、もし「ハンドクリーム貸して」って言われたら、悩む間もなく貸してあげるけどさ。
断る理由もないし、何よりあたしがアイツを気に入ったんでね。

しっかし、面白いルームメイトが出来たもんだぜ。
母ちゃんに話したらツボにハマって気に入るかも……はは。

と、まァ……ってな訳だ。こんな趣味の悪い集まりだけど、

仲良くやってこうぜ、伊介様?

720: 2014/10/31(金) 00:35:23.27 ID:gED+iRefO
以上ッス
グダグダサーセン……肝心な所でsagaのやり忘れとかちょっと伊介様に蹴られてくる

引用: 悪魔のリドル短編SS投下スレ