日本「報道」協会だと思ってきたNHK新会長、エンタメ番組も「受信料で賄うに値する」…大量生産抑制し“再放送”に活路

日本「報道」協会だと思ってきたNHK新会長、エンタメ番組も「受信料で賄うに値する」…大量生産抑制し“再放送”に活路

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インタビューに答える、井上樹彦NHK会長(3月11日、東京都渋谷区で)=和田康司撮影
インタビューに答える、井上樹彦NHK会長(3月11日、東京都渋谷区で)=和田康司撮影

 財政難が続くNHKが、受信料滞納者に対する民事手続きを強化させている。支払っている人との公平負担の観点から放送法上の原則を貫く構えだが、そもそも受信料制度の是非や、NHKが扱うべき番組の範囲、“再放送”の多さなどについて、モヤモヤを感じている人も多いはず。様々な疑問について、1月に就任した井上 樹彦たつひこ 会長に真正面から尋ねてみた。(文化部 旗本浩二)

受信料収入の大幅減続き、収支均衡達成に黄信号

 NHKでは、2023年10月からの受信料1割値下げにより、27年度までの4年間で1000億円の支出削減を余儀なくされ、現在は赤字予算を編成。同年度で収支均衡に持ち込むことが目下、最大の財政目標だ。ところが、19年度末に過去最高の4212万件だった契約総数は、コロナ禍で戸別訪問がしにくくなったことに加え、昨今の物価高などで減りはじめ、24年度末は4067万件と5年間で145万件減少している。18年度に過去最高の7122億円だった受信料収入も、24年度末には5901億円にまでしぼんでおり、果たして収支均衡が達成できるか危ぶむ声がある。

 放送法では、放送受信機器(テレビなど)があれば、番組を見ようが見まいが、受信契約義務が課される。逆に言えば、「テレビは置いていない」という家庭や職場は契約対象にならず、契約件数に関しては、NHKの努力だけではいかんともしがたい一面がある。ただ、NHKにとって幸運なのは、昨年9月末と12月末で契約総数が下がっていないことだ。しかも「テレビ離れ」を象徴するようなテレビ撤去による解約は増加傾向にないという。

NHKの資料をもとに作成(2025年度は9月末現在)
NHKの資料をもとに作成(2025年度は9月末現在)

 一方、自助努力で減らせるのが、契約を結びながら支払いを怠る滞納者の数だ。1年以上受信料を滞納している未収件数は、19年度末が72万件だったのが、年を追うごとに増え、昨年9月末時点では177万件にまで膨張していた。こうした滞納者に対しては、簡易裁判所を通じた支払い督促申し立てを06年度から実施しており、12年度には過去最高の1639件の申し立てを行っている。しかし、コロナ禍で戸別訪問が制限され、その後、戸別訪問自体を廃止したこともあり、申し立て件数が減少。24年度は125件にとどまっていた。

「いったん契約した人はNHKの番組を見る意思があるはず」

 井上会長がこう説明する。「これまで契約確保に躍起になっていたが、その内実が伴っていなかった。中にはとりあえず契約して、1か月だけ支払ったという人もいるかもしれない。でも、我々としては払い続けてほしい。言うなれば“契約の質”を上げたいんです。未納・未収では質が高くない。いったん契約した人はNHKの番組を見る意思があるはずで、見ているはずだ。それなのに支払っていないというのなら、そこに手をつけないわけにいかない。これまで、契約を取ったらそれで終わり、ということでなかったか反省があるんですね。そこをフォローすることで契約数は変わらなくても収納額は増える。公平負担の観点から見ても契約の質の強化、フォローをもっとやるべきだったかもしれない」

 そこでNHKは昨年10月、「受信料特別対策センター」を設置。12月末までに398件の支払い督促の申し立てを行った。来年度は2000件超を目指す方針だ。注目すべきは、実際の申し立て以上にNHKのこうした 毅然きぜん とした姿勢が視聴者心理に与える“アナウンス効果”だ。11月18日に同センター設置を発表して以降、1月末までに、滞納者の支払い再開は、4・2万件、14・8億円に上り、前年の同じ期間と比べほぼ倍増している。井上会長は「明らかに支払い督促による民事手続き強化発表のアナウンス効果があるとみている。(契約したら)やっぱり払わなきゃいけないんだという原則のPRになったと思う」と話す。

申し立てせず、いきなり民事訴訟へ

現在の東京・渋谷のNHK放送センター。経費削減の動きの中、建て替えの全体の完成時期を当初計画より約7年遅らせることを決めた
現在の東京・渋谷のNHK放送センター。経費削減の動きの中、建て替えの全体の完成時期を当初計画より約7年遅らせることを決めた

 昨秋以降の督促申し立ての対象は、一般家庭が中心だった。しかし滞納を続ける事業所は、24年度末で約2万件。5年間で倍増しているといい、今後はこうした事業所対策にも力を入れていく。第1弾として、今月12日には、受信料を滞納する福岡県と北海道のホテル運営会社に対し、支払いを求める民事訴訟を起こした。本来なら簡易裁判所に対する督促申し立てが行われるが、相手方が異議申し立てを行うのは明確だったため、簡裁での手続きを省いて福岡・札幌両地裁への民事訴訟の提起となった。滞納事業所への民事訴訟は7年ぶりとなる。

 NHKによると、福岡県の会社は、6年5か月にわたり、地上契約147件分の計約1370万円を滞納。北海道の会社は、8年8か月にわたり、同66件の計約850万円を滞納している。ホテルなどでは、テレビのある客室ごとに契約が必要とされるため、件数・金額ともにこの規模となった。

民事訴訟が「(滞納する)事業所に対しても一つのメッセージになれば」と語る井上会長=和田康司撮影
民事訴訟が「(滞納する)事業所に対しても一つのメッセージになれば」と語る井上会長=和田康司撮影

 民事手続きは、誠心誠意、受信料制度の意義や公共メディアの役割を丁寧に説明してもなお理解してもらえない場合の最終手段との位置づけだ。井上会長は「(相手方と)だいぶ交渉をやってきたが、十分手を尽くしてもダメだったということ。ほかのホテルには支払ってもらっているので、見過ごしておくわけにいかない。確信的に支払わないところにはこういう措置を取らざるを得ない。(滞納する)事業所に対しても一つのメッセージになれば」と説明。こちらもアナウンス効果に期待しているようだ。

 NHKは、こうした滞納対策に加え、新規契約者の獲得も強化。今年度末の受信料収入を5900億円と見込み、来年度予算では5910億円と、いよいよ増収に転じさせる計画だ。とはいえ、NHKを支える現在の受信料制度自体に疑問を感じる人は少なくない。

「豊かで良い放送」は有料配信やスクランブル方式と相いれない

 そもそも「放送受信機器があれば契約義務」は、放送法が施行された1950年当時に編み出された考え方だ。その頃はニュースを得る手段が乏しく、娯楽も少なかったため、テレビ、とりわけ全国津々浦々に番組を届けるNHKの役割は大きかった。「テレビがあれば当然、NHKを見るはず」と考えるのも理解できた。それから約76年、娯楽の多様化はもちろん、民放など民間メディアの成長により様々な形でニュースが届けられるようになった。さらにインターネット社会化で配信を通じた番組視聴が隆盛となり、SNSによる個人発信も当たり前のように行われている。

 こうした状況下で、「見てもいないのに契約させられる」仕組みは妥当なのだろうか。むしろネットフリックスなどの有料配信と同じく、視聴の対価として契約を位置付け、未契約者には画面にスクランブルをかけて番組を見られないようにする方式の方が妥当なのではないか。受信料制度を含め、NHKという存在そのものが放送法で定められているため、役職員が是非を語れるものではないが、尋ねてみた。

 「放送法は『公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ良い放送』を行うのがNHKの役割と規定している。その役割を果たすための自主的な財政基盤として受信料制度がある。(受信料は)受信の対価と思われているかもしれないが、そうではない。『豊かで良い放送』には、例えば災害時のどうしても国民に伝えねばならない放送も含まれている。そのための財源を公平に負担してもらうのがNHK。有料配信やスクランブル方式などとは相いれない。この制度の意義について、もっと理解してもらわないといけない。

 この制度自体はやっぱり最上だと思います。災害・選挙報道などは相当なカネがかかり、これをみんなで公平に分担して賄うことは、全体のサービスにつながる。何より(公権力などからの)独立性ですね。この制度なら一線を画せるので、ものすごく貴重だ。受信料は徴収までNHKが行い、完結している。そのことがいかに貴重か。競合相手が増えているし、特に若年層の意識の変化があるが、いろんな手段を使って説明してこの制度だけはなんとか存続させていきたい」

「ジャンルよりも、受信料に値するコンテンツかどうかが大事」

 とはいえ、視聴者の中には「報道や教育・教養番組を受信料で賄っていくのは理解できるが、ドラマやバラエティー、音楽番組などまで受信料で制作する必要があるのか」との声は少なくない。この点について井上会長は「ジャンルよりも、受信料に値するコンテンツなのかどうかが大事」と指摘した上で、こんな話を明かしてくれた。

NHK放送センター建て替えの一環で、NHKホール(右)の隣に完成した情報棟(左)
NHK放送センター建て替えの一環で、NHKホール(右)の隣に完成した情報棟(左)

 これまで若い頃から主に政治記者として活躍し、報道部門に軸足を置いてきた井上会長。「極端な言い方をすれば、NHKは『日本報道協会』だと思って働いてきた。報道だけあればいいという気持ちに時々なっていたんですね。その後、視聴者と接するようになり、報道は歴史の年表で言えば出来事だけで、人々が生きた証し、民衆史、文化史がなく、それだけでは人間の生活や歴史は完結しないと思ったんです。例えば『紅白歌合戦』なんて庶民の戦後史だし、ドラマもその時々の時代を映すコンテンツなんですよ。貴重な文化遺産、歴史遺産であって、それも含めて我々は放送している。

 東日本大震災の時は徹底的に報道したんですが、1、2か月たったら、がれきの山や津波の映像ばかり流れるので『もうやめてくれ』と避難所でもテレビを消してくれという話があった。その時、これで人々の心を救えるかどうかは別だなと思いました。その後、連続テレビ小説『あまちゃん』や大河ドラマ『八重の桜』が放送され、被災者の心を救った。エンタメだからこそ、感情を取り戻して生きる気力が湧いてくるという声も届いてきた。それらも受信料制度で賄うに値するNHKの役割なんですね。ただ、なんでもいいわけじゃない。本当に作る意味がある番組なのか、民放と同じものになっていないか、見極めていく必要がある」

 「再放送で『ありがたい』と言われるコンテンツ作りたい」

 他方、最近のNHKは、「選」と銘打って過去の人気だった放送回を流すなど、実質的な“再放送”とも思える番組の再利用が多く、そのあたりはどうやら新年度も変わらないようだ。この点、井上会長は、発想の転換とも言うべき見解を聞かせてくれた。

「再放送が多いと言われますけど、僕はこれもちょっと意識を変えたいんです。例えば映画の『国宝』はリピーターがものすごく多い。いいものは何回も見てもらえるし、見たくなるものを僕らも作りたい。再放送で『またか』じゃなくて『ありがたい』と言われるぐらいのコンテンツを作りたいんです」

 その上でドラマ制作に関し、新たな“基準”も提言する。「配信系と競争しているからレベルが上がっている。でも次から次へと洪水のように新作を作るのでなく、一本一本のコンテンツをもっと大事に扱ったらどうだろう。大量生産、大量消費はやめよう。出演者らが命がけで作ったコンテンツが、(初回放送・配信を見逃すと)見られないまま終わりにするのでなく、BSで放送したものを地上波で放送するなど、コンテンツの扱い方をもっと変えていきたい」

 こうした井上会長の方針も踏まえ、受信料確保策から番組編成計画、4K・8K放送、配信展開まで、NHKの近未来像は、5月以降に始まる2027~29年度経営計画の策定作業の中で議論される。公共メディアの大きな分岐点ともなる計画の行方が注目される。ただ、最も大切なのは、NHKの方向性について、受信料を負担する視聴者の理解が得られるかどうかだ。

 04年に発覚したチーフ・プロデューサーによる番組制作費詐取事件をきっかけに大量の受信料滞納が起きた際には、当時の海老沢勝二会長が識者らと不祥事を検証し、公共放送のあり方について討論する特別番組が生放送され、視聴者らから多くの声が寄せられた。財政難で岐路に立たされた今、こうした番組が放送されて良さそうな気もする。この点について3月18日の定例会長記者会見で、改めて尋ねてみた。

 井上会長は「放送でどういった内容を取り上げるかは編集権に基づいて判断しますので、ご意見の一つとして受け止める」とした上でこう述べた。「受信料への理解はこれから特に重要。どうやって理解してもらうか、特に若い人たちは、サブスクとか(受信料を視聴の)対価とみる習慣がついている。それと受信料制度の違いは何なのかも含めて、いろいろな場で説明をして、理解を求めていくのは非常に重要な活動になる」。果たして本当にそれを実施するのか、公共メディアの信頼度が問われよう。

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