海外にいると、日本の姿が違って見えてくる。日本食、カルチャー、トレンド、価値観……世界各地の目線から見える“ニッポンの今”とは? 現地在住ライターが、海外から“逆照射”される日本の面白さをお届けする連載、第11回のテーマは、「韓国のおにぎり人気と三角キンパブ」。


昼になるとオフィスや公園でワーカーたちが弁当やおにぎりを頬張りながら談笑する。傍らにはテイクアウトコーヒーが置かれている。数年前まで韓国では見られなかった光景だ。連れ立って外食し、ランチ後はカフェで談笑するのが日課だった。かつてコンビニ飯は、一緒に食べる仲間がいない寂しい人の食べ物とみなされていた。

  • 韓国に再上陸した日本式おにぎり

    韓国に再上陸した日本式おにぎり

■三角キンパブとは

空前の日本ブームが続く韓国で手軽な日本風フードが脚光を浴びている。その一つが三角キンパブだ。キムは海苔、パブはご飯。韓国には「キンパブ」という海苔巻きがある。ごま油で味付けしたごはんと海苔に数種類の野菜や肉を入れて巻いたもの。韓国式太巻きといえばイメージできるだろう。コンビニや街角で売っている定番のファストフードで、おにぎりはそれが三角形になった感じなので「三角キンパブ」と呼ばれている。
※筆者注:海苔巻きはキンパ、キンパッ、キンパブなどと呼ばれている

  • 通常のキンパブ

    通常のキンパブ

日本のコンビニおにぎりの定番は「ツナマヨ」「鮭」「わかめ」「梅」といった魚介や海藻、果実だが、韓国だと魚系の具材はツナマヨくらいで、「プルコギ(牛肉炒め煮)」や「サムギョプサル(豚焼肉)」「スパム」などの肉系が中心だ。海苔も、ごま油と塩で味付けした韓国海苔が使われる。

味の2大定番は「ツナマヨ」と「全州ビビンバ(後述)」。「ツナキムチ炒め」や「スパムキムチ炒め」も人気がある。

  • 韓国コンビニの三角キンパブコーナー。向かって左に元祖キンパブ(韓国式海苔巻き)が並ぶ

    韓国コンビニの三角キンパブコーナー。向かって左に元祖キンパブ(韓国式海苔巻き)が並ぶ

代表メニューを紹介しよう。ツナマヨの具材は名前の通りツナとマヨネーズで、韓国海苔を使う以外、日本と大きな違いはない。韓国のコンビニはよほど狭い店でない限りイートインコーナーがあり、電子レンジと温水器が置かれている。三角キンパブをレンジで温め、カップ麺と一緒にイートインで食べる人が多いが、韓国は辛いカップ麺が多く、ツナマヨが口の中で辛さを和らげる。カップ麺の追販による収益性から、コンビニはおにぎりに力を入れている。

  • たいてい韓国のコンビニにはイートインコーナーが設置されている

    たいてい韓国のコンビニにはイートインコーナーが設置されている

日本の韓国料理店でも目にするビビンバは、韓国中西部の古都・全州発祥といわれている。器に盛ったごはんに野菜や肉などを載せ、コチュジャン(唐辛子味噌)とごま油で味と辛さを整える。

コンビニの「全州ビビンバ」三角キンパブは、コチュジャンソースで味付けした真っ赤なごはんに刻み肉かコチュジャンペーストを入れたもの。外見から味をイメージできるとして人気がある。コチュジャンごはんにコチュジャンペーストといういかにも激辛好きな韓国らしいメニューである。

  • 通常のビビンバ

    通常のビビンバ

■独自進化を遂げた「三角キンパブ」

韓国にコンビニおにぎりが登場したのは1990年代。セブンイレブンが最初で、ファミリーマート(現CU)が続いたが、ほとんど売れなかったという。主な理由は3つある。値段と具材、それから食べ方だ。

ランチ相場が3000~4000ウォンだったこの時代、おにぎりは1個1000ウォンで、割高感があった。また具材が見えないことから味をイメージできないうえ、日本式の味付け海苔も韓国人の嗜好に合わなかった。包装フィルムの開け方がわからず、おにぎりと海苔を別々に食べる人や海苔をフィルムと一緒に捨てる人もいたという。

2000年代に入ると転機が訪れた。コンビニ各社が日本から最新式の製造機を導入、外食費が値上がりするなか、大量生産によるコストダウンで700ウォン~900ウォンという低価格を10年以上、維持し続けた。

さらに、メニューを韓国化した。外見から味をイメージできる全州ビビンバや、具材が見える商品を開発。海苔も日本式の醤油味からごま油と塩で味付けした韓国海苔に変えるなど、独自の進化を遂げた。ワールドカップサッカーの日韓共同開催で日本への関心が高まり、スポーツ観戦やレジャーなど“短時間で済ませたいニーズ”も加わり認知度が高まったが、大ヒットには至らなかった。

  • 独自進化を遂げた三角キンパブは具材が見える肉系が多い。写真はプルコギ(牛肉炒め煮)

    独自進化を遂げた三角キンパブは具材が見える肉系が多い。写真はプルコギ(牛肉炒め煮)

というのも韓国は複数人が一緒に食事する共食文化で、一人飯は冒頭で書いた通り、“友達がいない人”とみなされからだ。三角キンパブどころか、この時は“コンビニ食”自体が浸透しなかったのだ。

■コロナが変えた食文化

三角キンパブは2020年代に入ると急成長を遂げはじめる。新型コロナウイルスが拡散すると韓国政府が外食を制限して一人飯が浸透した。次が外食費の高騰だ。2020年から2025年にかけ物価が16%上昇したなか、外食費は25%も上昇、なかには38%値上がりしたメニューもある。

韓国は会社が社員に昼食費を支給すると月20万ウォンまで非課税となるが、いまやランチは1万ウォン以上が当たり前で、毎日外食すると非課税枠を超えてしまう。その点、三角キンパブなら食後のコーヒーを足しても非課税内に収めることができる。安価な三角キンパブとテイクアウトコーヒーの組み合わせがOLランチとして広がった。韓国コンビニ最大手のCUは三角キンパブの売上が前年比15%以上増えた月もあるという。

  • 全州ビビンバ-コチュジャン味の定番商品。真っ赤なごはんのなかにコチュジャンペーストが入っている

    全州ビビンバ-コチュジャン味の定番商品。真っ赤なごはんのなかにコチュジャンペーストが入っている

■日本式おにぎりが「再上陸」

三角キンパブの売上が伸びるなか、日本式おにぎりが「再上陸」した。仕掛け人は大阪出身の女性経営者。2002年に語学留学で韓国に渡り、学生街で大阪式お好み焼き店を開業。その後、20年以上にわたってソウルで日本式居酒屋「とんあり」を経営してきた女性で、2025年2月、スタッフ全員が日本女性という日本式にこだわったおにぎり店を開いた。

おにぎり店は1日150〜200個売れれば成功といわれるが、異国の地で開店まもなく1日300個を販売するまでに。購入客は約半数が女性会社員で、近くにあるお嬢様学校の女子高生、それから30~40代の男性だという。開店から半年余りで1日400個を超える人気店となり、2026年1月にはソウルの官庁街に2号店を開業した。

  • 日本式おにぎり店。日本の定番具材のおにぎりを販売する店も増えている

    日本式おにぎり店。日本の定番具材のおにぎりを販売する店も増えている

この人気に対して、韓国コンビニも黙ってはいない。セブンイレブンが日本人料理家と限定商品を共同で開発し、その共同開発者の顔写真入り三角キンパブを発売すると、CUや韓国最大手のGS25も顔写真入り共同開発商品を相次いで投入した。

さらに各社が力を入れているのがビッグサイズだ。食材費の高騰を受け、コロナ前と比べて20%以上値上げするなか、2〜3倍サイズを既存サイズの1.5〜2倍の価格で販売するなど「1個では足りない」層を取り込んでいる。

  • セブンイレブンが日本人料理家と共同開発した顔写真入り三角キンパブ

    セブンイレブンが日本人料理家と共同開発した顔写真入り三角キンパブ

■おにぎりvs三角キンパブ

おにぎり販売は大手百貨店でも始まっており、「オニギリとギュードン」というチェーン店も広がっている。面白いことに韓国式おにぎりは「三角キンパブ」、日本式を謳う店は「オニギリ」を名乗っている。

独自進化したメニューと日本式の呼び分けはオニギリが最初ではない。韓国式ラーメンは韓国語でラーメンを意味する「ラミョン」、日本式は「ラーメン」という呼び分けが定着していて、トンカツも韓国式は「トンカス」だが、日本式を謳って「トンカチュ」と表記する店もある。韓国語には「ツ」の発音がなく、標準外来語表記で日本語の「ツ」は「ス」とすることが定められているが、日本語の発音に近い「チュ」を使って差別化を図っているのである。

「三角キンパブ」は韓国セブンイレブンの日本人が命名したと言われている。日本のおにぎりが独自進化を遂げたあと日本式が「外来種」として再上陸した。「三角キンパブ」と「オニギリ」が融合するのか、似て非なるメニューとして独自進化を続けるか。今後が楽しみだ。